新履歴書構想

エッセイ/essay

新履歴書構想

履歴書というものをご存じだろうか。そう、お仕事の面接などで、雇う側に個人情報提出を強要されるアレのことである。
たいていの面接官は初対面である。そんな相手が危険人物かどうかも判断できていない段階で個人情報を提示しなければならないのだ。履歴書に口座番号と暗証番号の欄がないのがせめてもの救いである。

さて、この個人情報開示請求は、個人情報を握られても平然としていられるのかという度胸試しをしている、のではない。
面接官は一体、履歴書に何を見出そうとしているのだろうか。
答えは、何も見い出せていない、である。否、確かに内容を見てはいるのだろうけれど、我が社の仕事に適性があるか否かを判断するには、履歴書の内容はあまりにも無意味だということを面接官自身が知っているのである。
結局、お話したりおテストしたりおサイコロを転がしたりするのが雇用決定判断の本命なのである。

面接を受ける側からすると個人情報開示の恐怖に対する見返りとして、これではあまりにも不憫である。この通過儀礼的履歴書文化は是非とも見直すべきではなかろうか。
では、どのうような改革案があるのか。僕はとりあえず『改革案』とインターネットで検索することにした。すると政治のサイトばかりがヒットして、履歴書について言及しているサイトはついぞ見つけられなかった。

すっかり落胆してしまった僕は気分転換にゲームでもして忘れようと思った。その逃避的行為が新履歴書構想に繋がるとはその時の僕は知るよしもなかった。

なんと、とある世界ではすでに業務遂行に最適化された履歴書の書式が完成されていたのである。つまりそれを参考にして今の履歴書の書式を変更すればいい。
僕は俄然やる気になってファイナルファンタジーを英語設定でプレイした。
思考をファイナルファンタジーに限定する必要はない。世に数多あるRPGゲームのほとんどがそうなのだ。

ほぼ全てのRPGは同じ骨子を持っている。こうだ。
世界という名のカンパニーが、平和という利益を得るため、モンスター(敵)を倒す勇者御一行を雇う。これがRPGゲームである。雇う側である『世界』とはつまり、プレイヤーであるあなたのことである。

あなたはキャラクターに『敵を倒す仕事』をさせるとわかっている。この時、キャラクターがどの地方出身でどこの学校に行っていたとかどこで働いていたとかを見せられても、そのキャラクターが魔王討伐の適性を有しているか否かなどわかりっこない。だから雇い主たる世界は、労働に必要なスキルを的確に要求しているのだ。

何か。
そう。『こうげき力』『防御力』『すばやさ』『魔力』である。
仕事がしたいキャラクターはこれらの個人情報を、世界カンパニーであるあなたに必ず提示している。僕を雇ってください、と。私ならば魔王を倒せます、と。
雇い主たるあなた(世界カンパニー)はキャラクターが自己アピールしてきたその能力値に常に目を光らせ適性を判断する。というより、その他のことなどどうでもいい、と言ってもいい。
それでたいていの場合はキャラクターは世界平和をもたらしてくれるのである。つまり、会社にものすごい利益をもたらしてくれる逸材であったというわけだ。面接で落とさなくてよかった~、というわけだ。

現実の社会でも同様である。雇用主は労働者に何を求めるのかがはっきりとわかっている。雇用主は未来の労働者に対して、その何かを具体的に提示してくれさえすれば、その有無について答えることができる。意味も意図も不明な履歴の提出など不要となろう。
そうして求める個人情報と提示される個人情報が一致すれば、必ずと言っていいほど魔王を倒すような逸材を雇用することができるのである。使えないヤツを雇って魔王の直前で仕事がご破算ということがないのである。

そんなわけで、現実の雇用も必要とするスキルの有無が判断できる履歴書に改めればよい、と思った次第。

ではまず『攻撃力』について考えてみよう。
攻撃力とはこちらの社会で言えば推進力や積極性といえる。よって受面者(※)に推進力や積極性があるのか否かを問う質問をする必要があるだろう。
『横断歩道の信号は赤です。多くの歩行者が立ち止まっています。この状況下で、あなたは赤信号を無視して進めますか?』
おぅ、いいのではなかろうか。

次に『防御力』について考えてみよう。
防御力とはこちらの社会で言えば忍耐力といえる。忍耐力の有無はどのような質問をすればいいだろう。
『あなたはギリギリ身体が入るくらいの狭い空間に押し込められています。寝返りをうつ隙間すらありません。そこは闇に包まれ、水も食料もありません。ただし呼吸だけは問題なく行えるものとします。何時間耐えることができますか?』
なかなか、いいのではないか。

次に『すばやさ』について考えてみよう。
すばやさとはこちらの社会も同様、すばやさである。人が何に最もすばやさを感じるのか。世界記録保持者のダッシュも確かにすばやさを感じられるものである。しかし足の速さを問うたところで、社会生活においてダッシュの速さが活きるのは寝坊して遅刻しそうな時くらいである。では社会的に見る有効なすばやさとは何か。そう、のび太くんである。
『あなたはいついかなる時、どんな場所であろうとも秒で眠りにつけますか?』
迅速な入眠は社会ではかなり有用な能力である。いい。

最後に『魔力』について考えてみよう。
今や世界は科学が支配している。そんな中で魔法が使えるなんて言えば厨二病などと笑われてしまう。ギガンティックメテオストライクバーストファイナルエディショョョョョョョョョョョョョョン!! ふふふふ、ふははは、クハハハハハ勝ったz。これではイタかろう。
では現実の社会での『魔力』とは何を示すのか。そう、ペテンである。科学の全盛の時代にあって、非科学的な現象を如何にして信じさせることができるか。もしも非科学的なことを事実と信じさせられるのならば、すなわちそれは『魔法』なのである。
『嘘はつけますか?』
いい。すごくいい。

この4つの質問の回答を見れば、きっと有能な受面者か、あるいは無能かを判断できるのではなかろうか。

ではさっそく、僕自身で試してみるとしよう。
『赤信号ですが、無視して進めますか?』
僕:御社のためなら是が非でも。

『あなたはギリギリ身体が入るくらいの狭い空間で何時間耐えることができますか?』
僕:1秒もつかどうか。恐怖です。

『あなたはいついかなる時、どんな場所であろうとも秒で眠りにつけますか?』
僕:小さな音にも敏感で、どちらかと言えば不眠症ぎみです。

『嘘はつけますか?』
僕:はい、息をするように。

結論:新履歴書では、僕はどこにも雇ってもらえそうにないので、従来通りでいいと思います。

(※)受面者ってなぁに?

面接官という小粋な名称がある半面、面接を受ける側の言葉が正式には存在しない。応募者、受験者などという言葉があるにはあるのだけれど、イメージ的にシチュエーションがかなり限定される印象だ。『勇者面接』にきたブレイバーを応募者と呼ぶには軽すぎる。応募というのは懸賞などのもっとライトなイメージを伴う。面接官はワードとしてとてもスマートだ。不公平だ。面接を受ける側にももっと威厳に満ちた名称がほしい。そこでそのまんま【受面者】とした次第。もっと工夫せよ、というクレームは、うん、ごもっとも!!

October.2022 / written by K.Mitsumame

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