【エッセイ】とある小説賞の授賞について少々……その4

2020年3月28日

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ストライプ柄のスーツというだけでその仕事に対する高いプライドが感じられる。髪にはシティボーイ感バリバリのオシャレパーマ。
この姿のまま結婚式に参加しても違和感などありはしない。

小さな会議室。
そこは一瞬にして、エリート街道を歩むことを許された選ばれし者臭で満ち満ちた。
そう、彼こそが天下は集英社の編集者だったのである。

他の受賞者でもいれば編集者のオーラを薄めることができたろう。しかし、タイマンである。濃厚だ。
緊張感が否が応にも高まって然り。

編集者は僕のことを値踏みするかのように、目を細くしてこちらをうかがってくる。
色白で、彫りが浅めの面相、体躯はかなりスマートで身長はそこそこ高い。間違いなく異性にモテることだろう。さらに集英社の冠が付加されているのだから、なおさら異性の好意を集めそうである。
実際に年齢を聞くようなことはなかったけれど、若く見えた。

軽く挨拶。座るように促される。面接に来たような雰囲気だ。礼を言ってお互い座る。
座ってからも、値踏みするかのような視線を感じ続ける。どうも座りが悪い。
その会議室にはカフェのメニュー表が置いてあったが、そこから好きなものを選んでくれと言われる。
コーヒーを選んで、そのことを伝えると、編集者は内線でそのことをどこかに伝える。しばらくすると、女性がコーヒーを持って来てくれる。なるほど、会議中はこうして飲み物などを注文できるということか。さすが集英社!!

編集者はまず受賞作についての簡単な感想を述べ、そしてその作風から編集部で「一体どんな人がくるのだろうか?」と話題となっていたと話す。というのも少々グロテスクで過激な心理描写のある物語であったため、イメージでは『見るからにエグい人、どちらかと言えばキモチワルイ感じの人がくるのでは?』という意見があったそうだ。そんなアクの強いイメージとはかけ離れた、編集者いわく「思いのほかさわやかな感じの人」だったので、それはそれで驚いていたのだと言う。
「はぁ……残念ながら普通の人なんです」
僕としてはなんと答えていいことやら(笑)

その後、その人こそが今後僕の担当をする編集者その人であることと、今後の予定と創作の方向性について軽く話した。

この時すでに、僕はその編集者とは性質的に合わないな、と感じていた。きっとその編集者も同じように感じていたことだろう。
会話の間の取り方やテンポなどが微妙に合わないのだ。
お互い、初対面で敬意を払いあっているというのにそうなのだから、気を抜けばなおさら合わないことだろう。
ただし、これは好みの問題ではない。性質の違いという感じで、印象が悪いという意味ではない。打ち解けることがないタイプの相手という感じであった。

大作家さんが本に書いていたことがあるのだけれど、そのことを思い出した。
編集者との相性はとても大事、と。
その大作家さんが作家として大成できたのは編集者に恵まれたからだ、と。

もちろんこの言葉を鵜呑みにするようでは、思考があまりにも浅すぎるだろう。
凄腕の作家であったからこそ、編集者もその作家さんに合わせようとしてくれるのだ。その作家さんにとってプラスになるように、歩み寄ってくれるのである。なぜならそうすることが最大の利益を生むからである。

要するに、作家と編集者の相性は、性格が違うから合わない、などと言って切り捨てられるものではない。
僕自身に光る何かを感じさせられなければ、編集者は相性の良い編集者にはなってくれないのだ。
当たり前のこと。これは全て、僕自身の問題なのである。

実力の世界。
そんなもの先刻ご承知である。

さて、編集者いわく、大した賞でもないので、受賞式とは名ばかりの、あくまでも顔合わせ、親交を深めるためのイベント。期待はしないように、と。

実際、授賞式はそのビルの中の別室で行われる。
特に何かが飾られていたりすることもなく、3秒前に誰かが思いついて「今から授賞式をしてみよう!」と言い出して始められるレベルのものであった。
ただ、やたらと人は集まってきた。
皆、編集者である。
たくさん名刺を貰ったので知れたことだけれど、他の編集部の人たちも多くいた。まぁ、物見遊山のような感じだろう。あるいは、一応の授賞式の体裁をたくましくするためのサクラだったのかもしれない。内心「こんな忙しい時に、こんな賞に受賞式とかいらねぇよ」とか。これはさすがに邪推か(笑) いやいやあながち……なははのは。

~その5へ続く~

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(2020.3.23-nonora.typewrite)