【エッセイ】とある小説賞の受賞について少々……その5

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その賞の受賞者は僕を含めて3人いる。
受賞式会場にてようやく顔を合わせた。
2人とも僕より遥かに若い男性。もしかしたら大学生かもしれないというくらい。そのへんのプライベートな部分に踏み込まない範囲で創作について話したのだけれど、やはり会話の内容がほのぼのとしており、雰囲気からしてフレッシュであった。だから僕も若ぶってやった。年齢のことは僕にも編集者にも聞いてはいけない。僕たちは知らなければ同年代の可能性を残した仲でいられるのだ。

受賞式が始まった。
学校の教室を綺麗なオフィス仕様にしたものをイメージしてほしい。
その空間には会議室にありがちなパイプ椅子が並べられており、その最前列が僕たち3人のもの。そして、ただでさえ弱い立場である僕たちの背後をあっさりと取る形で、お偉方がずらりと並んだ。

前の扉のそばに司会者が立っている。
「〇〇賞授賞式を始めます」(と、いうような開始の掛け声があったような気がする。正確な文言は忘れてしまいました)

さて、そんな司会進行役は誰か?
担当編集者だった。
お前がやるんかいっ!!

あとから聞けば、今回の受賞者全員をその編集者がまとめて担当するからとのことらしい。
まったく、とんだ欲張りさんだ。と、言いたいところだけれど、編集者としてはすでに名声のある作家さんの担当につきたいはずである。そのための営業の時間も取れなくなるであろう。だから、まとめて世話役なんて面倒事以外の何ものでもないような気がする。

このことを裏付けることとして、その後の懇親会の席で担当編集者はこんなことを話していた。
偏差値の高い有名な賞を取ったとある作家さんがいる。しかしまだ全然売れていない。たまたま僕はその作家さんを知っていたので(偶然にもデビュー作からすべて読んでいた!!)、とても興味深く、うれしい気持ちになった。
その作家さんは業界からは評価が高く、読者の認知度がまだついてきていないという。確かにそう表現されると、すごく納得がいく。僕自身、好きになっているわけだから、もっと売れても良いのになぁと思っていたのだ。
これは、言い換えれば、今後売れるかもしれない原石のようなもの。
考えれば当然のことなのだけれど、未知数の新人に希望を持つのも良いけれど、すでに商業作家としてスタートを切っていて、なおかつ評価が高いのにまだ売れていないという人にアプローチする方が成功する可能性は高かろう。
担当編集者はその作家さんに会って、作品を書いてほしいという打診をしたのだそうだ。すると、あなたで9人目の依頼だと言われたそうだ。その全ての依頼を受けることは時間的に不可能だから、提示される条件などを鑑みて作家側が選ぶことになる。
その後、どういう経緯を辿ったのかの詳細は知らない。
ただ、その作家さんは、それ以降からこれまで何冊も出版しているが全て他の出版社からである。

授賞式に話を戻しまぁす。

まず編集長が挨拶をする。祝辞とエールと厳しい世界であることについて。
次に、編集長が挨拶をする。祝辞とエールと厳しい世界であることについて。
さらに次に、編集長が挨拶をする。祝辞とエールと厳しい世界であることについて。

もぅ編集長だらけ(笑)
違う部署の編集長で3人とも年齢はオジサンクラス。うち二人は茶髪。さらに、そのうち一人はストライプ柄の白スーツであった。
具体的に言えば、一人は普通のおじさん、一人はちょい悪オヤジ、一人はチンピラであった。
後ろの2人は別部署の編集長なので、脅されてお金を取られる心配はなさそうだと安心した。

次に、副編集長が挨拶をした。立場的にそういう役割になるのだろう、とても現実的なことを述べておられました。業界の過酷な現実。

その後、受賞者ひとりひとりが盾や賞状や目録を受け取る。
最後に写真撮影をして、閉式となったわけである。

式のあとは、出版社の内部を案内してくれるとのこと。
そして夜は、中華料理屋に移動して懇親会という運びとなる。

編集者いわく、「大したことのない小説賞なので」と声を小さくして言うけれど、こちらとしては全てが初めての体験の連続であり、その全てが刺激に満ちているのである。
どうなろうとも、幸運以外の何ものでもないな、というのが僕の感じるところである。
~その6へ続く~

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(2020.3.24-nonora.typewrite)