【エッセイ】とある小説賞の受賞について少々……その8

その1の記事はコチラ
その2の記事はコチラ
その3の記事はコチラ
その4の記事はこちら
その5の記事はこちら
その6の記事はこちら
その7の記事はこちら

その後、担当編集者とのやり取りは、月に1つ長編新作を書き上げ、それを送付し、意見をもらうという形となった。
なぜそうなったかの経緯は割愛するとして、受賞作はひとまず棚に上げておこうというわけである。

僕もこれには賛成だった。
以前の記事にも書いたのだけれど、最終選考に残った際『もっとちゃんと書いておけば良かった』と後悔するような自己評価だったのだ。
そんな突貫で書いたような作品を処女作として世に出してほしくはなかった。
それに、受賞作の作風がそのレーベルカラーに合わない作品であることは百も承知であったし、担当編集も「序盤からあの過激な展開はウチの読者層にはちょっとキツイですねぇ」と言っていた。

それでなお受賞に至ったのは、独特の筆致と序盤から過激な展開を書くような人がどんな人か見たかった、という興味本意が正直なところだろうと思っている。あとは、他に受賞させる作品がなかったから、という消去法か。

いずれにせよ、そんなことはどちらでも良い。確かなことはプロ編集者を相手に作品を通したやり取りができるスペシャルを獲得したという事実である。

新作の内容についての指示はナシ。
プロット段階での提出もナシ。
事前の助言もナシ。
とにかく思うがままに書いたものを読ませてください、ということだった。

やった~自由に書けるぞっ、とはならない。
なれる人がいれば、幸せ者で羨ましいなぁと思う(少なくともその時点では)。

というのも、方向性やテーマを限定してくれないということは、どこまでも自分で考えて正解を引かねばならない、ということなのだ。
当然のこと、編集者も口には出さないけれど、求めていたり好みである作風がある。そしてその編集者が所属するレーベルにもカラーというものがあるのだ。

遊びでやっているわけではないのである。
あくまでもビジネスのため、というのが大前提なのだ。
好きに書いて良い、と言われたからといって、それそのままの言葉として受け取ることなどできはしない。
言い換えれば、ゼロヒントで『僕たち編集部が何を求めているのかを含めて想定し、それに合わせた作品を上納せよ!』ということとなる。ヒェェェェェェ~(;´∀`)

まず、レーベルカラーはその編集部が発行している既存の書籍を読めばだいたい分かる。それが分かれば読者層も知れる。
僕の受賞作は中世ヨーロッパをベースにした世界を舞台にしたダークファンタジーだった。ハイファンタジーというところは適合するのだけれど、ダークな部分が少々行きすぎているという感じに思えた。
うん、フレッシュなものにしなければならないな、と決定。主人公の年齢もそれに合わせたフレッシュ世代であることにしよう。

次に、編集者が懇親会でオススメ作品を教えてくれていたので、それを読んで編集者の好みのヒントを探る。
当然、すでにプロとしてご活躍の作家さんのハイレベルな作品をオススメされている。
そんなわけだから、読んだところで、その何一つとして自分の作品に再現できることはないな、ということを深く認識する。
残念ながらヒントというヒントは得られなかった。
ただ、読んで面白かった、いち読者として。
だから、面白い作品をおススメしてくれてありがとうございます、と都内にいるであろう編集者の方角に向かって手を合わせておく。

さぁ~はやくも行き詰ったぞぉ。
ある程度自分のことを認めてもらうためには、その担当編集者の好みの部分を取り入れることが最善手であろう。しかし、その好みを刺激するためには既存のプロ作家さんの作品をそのまんま書き写して上納するほかない。それでは、ただの本のオススメし合いっこになってしまう。

仕方がない。
ひとまずは受賞作があるのだから、その受賞作のスピンオフ的な作品にしてみよう、ということにした。
ダークな要素を少し薄め、評価された世界観やら心理描写やらを詰め込んでやるか、と。

そして、公募の時のノリのままに、プロットすら考えず執筆に入ろうとするのである。

思えば、新人賞に応募する作品を書いていた時は、1ヵ月に1作書きあげるのは簡単なことだった。
仕事もしていたし遊びに行ったりもしているので、実質、発想から書き終わりまでを含めて10日くらいで終わっていたように思う。
そんな経験があるものだから、1ヵ月もあれば楽勝だと思っていた。それこそ1ヵ月で2作くらい書いて、より良いと思える方を提出するというのはどうだろうか、などと甘い妄想までしていたくらい。

確かに、書くということにさほど苦労していなかった時期なので、書き出しは順調だった。序盤を書き始めれば、勝手にこういうストーリーにして、こういう着地点にしようなどということが見えてきたりする。
うん、大丈夫。
楽勝じゃないか♪

そう思ってしまった。
これがその後僕自身を人生レベルで悩ませ続ける悪癖である。

イケる、と思ったら、そのまんま一気に書き上げてしまえば良い。
しかし、僕はもういつでも書き上げられるから遊ぼう、と執筆を中断してしまうのだ。テヘッ(≧▽≦)」

楽しい楽しい時が経つのはとってもはや~い!!
気づけば1週間前であった。
この時、まだ2週間くらいはあるだろうと思い込んでいたりするから、その焦りようは半端ではない。

慌てて、執筆を再開させる。
学生の期末テスト前の一夜漬け感覚である。

そうやって締め切りに追われて書くと、思わぬ問題が急浮上してくるものである。

まず、これが新人賞の応募と、まるで状況が違うということを思い知るのだ。
「当たり前だそんなこともわからないのか!」と叱責を受けても言い返す言葉はない、こともない。
こう言い返そう。
「そうなんです。僕、そんなこともわからないんですっ(≧▽≦)」

新人賞の応募の場合は、締め切りがくれば受付が終了するだけのことである。
書けなければ送らなければ良いだけ。そのことについて誰からか何を言われるということもない。
だから、特に焦ることがないから脳が良い感じで働くのだろう、キーを打つ手が止まることがないのだ。
一方、焦れば焦るほど脳が委縮するのかして、頭が働かなくなってくる。
物語の次の展開が思い浮かばなかったり、思い浮かんだとしても、どう考えても陳腐なものだったりする。

人には二種類いる。
追い込まれなければ本領を発揮できない人。
余裕がないと本領を発揮できない人。
僕は後者だったのだ。

と、初めて知った。
うん、知ることができたのでラッキー♪

ということで、完成した物語は『受賞作の方が数倍出来が良かったな』と自覚できるものだった。
そんなものをプロ編集者に提出するなんて、どうしてできようか。
生き恥も甚だしいっ!!

提出した♪

そうなのです。提出しないということが最悪の結果なので、送るほうがマシというスバラシイ論理を導き出したのである。

すると、とんでもないことになった。
自分に対して下す評価が必ずしも正しいとは限らないのだ。

しばらくすると編集者からメールがきた。
『読みました。電話をしたいので、空いている日時を教えてください』
~その9へと続く~

その1の記事はコチラ
その2の記事はコチラ
その3の記事はコチラ
その4の記事はこちら
その5の記事はこちら
その6の記事はこちら
その7の記事はこちら
(2020.4.1-nonora.typewrite)