汝、紳士萌えを知れ!!~感動のフィナーレ(謝)~

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 夜である。僕は住宅地の路地を歩いていた。もちろん紳士的に右端をスタイリッシュな感じで、である。背筋をりんと伸ばして、なのである。もしもすれ違う者があれば、もれなく振り返って見てしまうことだろう。(何あの人、変!)
 見上げれば暗黒あんこくの空に、立体的な波模様なみもよううねっていた。まるで黒塗くろぬりのお相撲さんが中空ちゅうくうにてうつぶせになり、空の隙間を埋め尽くしているかのようである。浮力を失い落ちてきたら一大事いちだいじ。実におぞましいではないか。
 その通り、僕こんなふうに思ふ。
 雲を割り、今にも無数の悪魔が降ってきそうだ、と。
 いわゆる、予感というやつである。紳士的予感はあなれない!!
 僕はほぅと小さく息を吐き出した。それから大量の空気を一気に吸い込んで空に向かって吐き出した。
「この僕がいる限り、お前たちの好きなようにはさせないぞっ!」
 激・咆哮げき・ほうこうby.紳士version。
 叫びは空間を激震げきしんさせ雲へと届く。
 するとどうだろう。
 あれほどに分厚く重々しかった雲が、嘘のように二つに分かれて行くではないか。
 てんがモーゼの十戒のごとく一直線に割れていく。重みのある鳴動めいどうが皮膚に震えをもたらすかのようである。ゴゴゴゴゴゴ、とかいうやつネ。
 不穏。
 来襲。
 緊迫。
 しかして、
 その隙間から降り下りてきたのは柔らかな黄金色おうごんいろのヴェールであった。
 なるほど、今宵こよいは満月であったのか。と、つい、そう勘違いしてしまいそうなあんめい混交こんこうであった。
 横に大きく広がりながら降り下りてくる光は、まさに空にかかる極光きょっこう大瀑布だいばくふである。
 しばらくするとその光の下腹部がゆらゆらと地上へと到達する。と、今度は雲間からその大瀑布を伝って滑り降りてくる者たちの姿があった。
 それが光の原因。
 天使たちだ。
 無数の天使たちだ。
 僕は目をらし、その中心部分をさらに良く見てみる。
 おぉ良く見えるではないか、さすが紳士的視点。まるで目玉の中に双眼鏡を入れているかのように遠いのに細部が見える。
 それは正確に言えば、雲が割れていたのではなかった。雲そのものが降りてきていたのだ。つまり、雲を構成していたその一つ一つの物体が、天使達だったのである。
 なんらかの理由により、天使達は光を失い、何者かの力によって暗雲のおりとらわれていたのだろう。
 これには天界で巻き起こっているであろう何らかの悲劇を感じさせずにはいられない。
 どの天使にもトレードマークと言っても過言ではない羽がなかった。

 天使の群れが路地を走り、天才的紳士こと僕のところへやってきた。天使とて宙をふよふよただよえないと、非常にぞくっぽく見える。天使が近づいてくる擬音ぎおんはタプタプタプタプ。
 その数はもはや数えきれない。タプタプタプタプタプタプタプ。
 あっという間に路地と路地が天使で埋め尽くされてしまった。タプタプタプタプ。
 路地に居場所を見つけられなかった天使達は電信柱に昇ったり、塀に昇ったりしている。
 そのうち僕の正面に来ていた天使がジジジと見上げてくる。
 身長は1メートルくらい。ぷっくりしたほほにおなか。たいへん肥えている。乳白色の光を帯びているからとってもまぶしい。
 その天使はひざに手をついた姿勢のまま言う。
「ぜはーぜはー、ちょっと待って、ぜはーぜはー走り慣れてないんだってばぁ私たちぃ」
 ハスキーでいて低い声音ながら、裏返っている。俗に言うおねぇのような話し方をするようだ。
 僕は気付かれないように後ずさろうとしたが、四方八方太った天使の塊である。全く身動きが取れなかった。諦めるより他ない。
 路地を埋め尽くす無数の天使がぜはぜは言って息切れしている姿さえ見なければ、地球そのものが輝いているようで、壮観そうかんではあるのだろう。
 しかしてこうも至近距離ではそのディティールを視野の外に追いやることはできそうにない。
 僕は小さく息を吐きだす。腹をくくり、目の前の天使に問いかけることにした。
「ちょっと太りすぎぢゃないかな。羽ばっかり使って楽をしているからそんなことになる」
 目の前の天使が「なっ!」と声を詰まらせると、周囲に「なっ!」が伝わり、「なっ!」の大波が僕を中心にした円形状に広がっていく。なななななななななななななななな
「うるさいっ! 今、夜だから」
 目の前の天使が「はっ!」となって口を手で押さえると、周囲に「はっ!」が伝わり、「はっ!」の大波が僕を中心にした円形状に広がっていく。はははははははははははははははは
たった一つだけであったのならば、ただの「はっ!」でしかない。しかしそれが間断まだんなく続けばどうなるか。
 そう、それは笑い声となる。
「ははははははははははははははははははははは!」
 やはりそうであったか。
 僕はふっ、と小さく鼻で笑ってから言う。
「相変わらず詰めが甘いな、悪魔どもめ」
ははははっ! しまった」
 しまった、の波がまた広がっていく。
 いちいちウザい。
 タプタプタプタプ。
 目の前の天使、否、悪魔の身体が光を閉じ込めるかのように黒く染まっていく。
「おほほほほ、惜しいところだったわぁ。今回こそはS級紳士を倒せると思ったのに。うっふん、しかし、バレてしまっては仕方がないわよねぇ」
 悪魔のセリフが終わるころ、周囲はすっかり暗黒に包まれ、無数にいた悪魔の群れが周囲の闇と同化していた。その闇が今度は目の前へと凝縮ぎょうしゅくするかように集まり始める。
 なるほど、所詮しょせんは下等悪魔だと思っていたのだが、そうではなかったらしい。
「ハーデスの女王自らのご降臨こうりんとは、本気で僕を倒しに来たようだ」
 闇が目の前のただ一点に凝縮され、ついには暗黒の女王の姿を形成した。
 僕は一歩後退りし、身構える。
 女王が不敵な笑みを浮かべ、そうして手を天へと振り上げる。電撃を帯びたブラックホールが女王の手の平の上でどんどん広がっていく。
 これは、本気を出さねばなるまい。
 僕はその身に備わっている全ての紳士を解き放つ。
 シンシとアクマ、決着の時。

 てか、紳士を解き放つってナンナンダヨッ!!

     ※※※※※※
夜である。 うら若き美人女性が道端で倒れていた。まず道端にうら若き女性が倒れているシチュエーションに遭遇そうぐうできるのが紳士の特権である。普通に一般人として生きていればなかなかうら若き女性は道端で倒れていてはくれない。この点が一般人と紳士が持つ天運の大きな違いである。
 僕はうら若き美人女性を抱え起こし、そのほほを軽く叩いた。
「んぅぅ……」
 閉じていたまぶたがゆっくりと開く。
 見下ろす僕と、うら若き美人女性の視線が交錯こうさくする。
 瞳はうつろろで、焦点がまるで合っていない。
「どうしましたか?」
「んぅぅぅ……」
 うら若き美人女性は僕の言葉に反応を示すかのように小さくうなる。しかし、意識が朦朧もうろうとしているのか、言葉にはならない。
 僕はスマホを取り出し救急車を呼ぶことにした。すると、そのスマホを持つ腕にそろっとした感触があった。見ると、うら若き美人女性の手が僕の腕をつかもうとしている。もちろん膂力りょりょくなどないに等しい。虚ろな瞳がじっと僕の目を見つめようとしている。うら若き女性の意思が分かる。
 仕方がない。僕はスマホを持った手を下ろす。
「僕が、分かりますか?」
「んぅぅぅ……し……しん」
「そう、紳士です。とてつもない
「シン……シ……」
 意味が通じているのは確かであろう。
 とにかく、こうなれば話かけ続けることが肝要かんようだ。再び気を失って戻ってくる保証などないのだから。
 とはいえ、この状況でどんなことを話すのが適切なのかなど分からない。
 ともかく、うら若き美人女性の意識が僕へと向くようにしなければならない。興味を刺激するということは気を引くということでもある。今、この世に、この地上に、うら若き美人女性の気を色濃く引き戻さなければならないのだ。
 僕はうら若き美人女性の興味を引く小話を聞かせてやることにした。
 紳士と悪魔の決着についての話である。
 僕が話すにつれて彼女の眼球に少し光が戻っていくような気がした。
 間違いなく聞こうとしている。
 あと少しだ。そう思った僕は小話のラストを力強く語った。
 語り終えた。
 すると、それまでの瀕死状態ひんしじょうたいが嘘であったかのように、うら若き美人女性がスックと立ち上がるではないか。
 見れば目の焦点がしっかりとしている。
 そうしてすっかり光の戻った瞳を半眼にし、見下ろしてくる。
 うら若き美人女性のその形の良い口が開き、僕との邂逅かいこう以後、初めて意味のある言葉を結んだのである。
「それってさぁ、テンシアクマの決着の間違いぢゃね?」
「ウン、ソダネ。テヘペロ(←ここ秘技・紳士萌え!)
 炸裂スっ!
 こうして、紳士であるところの僕は見事にうら若き美人女性が冷静な精神を取り戻すことに成功したのであった。
 めでたしめでたし。

【本項のまとめ】

紳士紳士しつこッ!!
読者離れが心配になる今日この頃((+_+))
紳士よ大志を抱けっ負けるな紳士! By.ノラーク

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