乃楽的旅行の醍醐味はズレている?~華麗なる観光地よりも地味な移動時間~

2019年2月9日



話をしようと思います。

じられないかもしれないけれど、僕は人を眠らせる特殊能力と、思い描いた風景を現実に再現する能力を有しているのでした。
人を眠らせる能力とは『面白くもなんともない話が長いだけ』ということではないと信じていただきたく思います。
または『驚異的美声により天使的癒し効果を発揮してしまう』ということがあれば、それなら良いのになぁ。

うでなく、指をパチンと鳴らし、もう一度指をパチンと鳴らすまでの間、その人を眠らせることができるのです。

してもうひとつ、たとえば月面の写真を見て、それを目の前の空間に向かって思い描くと、その空間が一時的に写真と同じ月面となるのです。

の睡眠&再現能力のおかげで、僕はもう某J〇Bもびっくりの、乃楽ツーリストをひそやかにオープンしているのです。

ンポーン。
お客様です。
本日のお客様は、見るからに老婆老婆している齢300歳を超えるであろう老婆でした。
お店「いらっしゃいませ。ご用件をなんなりと」
老婆「あの人、あの人がおるところに行きたい」
お店「あの人とは?」
老婆「このまえ死んでしもた」
 ブシャー!!(※1)

は広まった。
乃楽ツーリストはどこにでも連れて行ってくれるらしい、と。

ンポーン。
客様です。
本日のお客様は、見るからにソーシャルなゲームに月10万円定期課金していると思しき男でした。
お店「いらっしゃいませ。ご用件をなんなりと」
課金「は、はのぅ、ゆ、ゆきこちゃんがいるところに行きた、ひほひほっ!」
お店「お引き取り下さいませ」
課金「ど、どふしてでふ? ここはどこにでも連れてってくれるツーリストだっへ聞いて来たのひ!」
お店「そうではありません。あなたさまはすでに目的の場所に到達なされておりますゆえ」
課金「へ?」
お店「なぜならば、ゆきこちゃんは、すでにあなたのココロの中にいるのだからビシッ!!(※2)」
 号泣!!
 うおぉぉぉぉぉぉ。

(笑)噂は広まった。
乃楽ツーリストは感動をももたらしてくれるらしい、と。

ンポーン。
お客様です。
その日のお客様は、大好きな彼女にサプライズをしたい、しかしお金がないという男でした。
お店「いらっしゃいませ。ご用件をなんなりと」
金無「ヨーロッパに旅行に行きたいという彼女をびっくりさせたいんです。ここはどこにでも連れて行ってくれて、感動も与えてくれるツーリストだと聞きました」
お店「は? 噂と実際の経営は全く別物です。お客さまが勝手に無料だと言っても、販売側は正規の価格で販売することが一般的な経済だと思いますが違いますか?」
金無「すみません。俺、何か悪い事言いましたか?」
お店「ケッ、お金もないくせに彼女がいるとか生意気だっ、なんて嫉妬心から言っているわけではありません。常識、あくまでも常識の話をしているのです、僕はね」
金無「じゃあ、無理、なんですね」
お店「無理とは言ってません無理とは。今度その彼女とやらを旅行に連れて行く名目でここに連れて来てください」
 後日。
彼女「こんにちは~」
お店「おぉぉぉぉ♡いらっしゃいませ。ごよぅけ……」
金無「すみません、お世話になりまーす」
お店「ダ~ルっ!」
彼女「…………ぅぅ」
お店「あぁいや、ではさっそくツーリスティングを始めましょうか」
金無「お願いします」
 指パッチン、かーらーのアンドゥトワッチ!!
 異能発動×2!!

ャンシャララン♪
伸びのあるアコーディオンサウンドが風に乗って聞こえてくるようだ。ザ・ミュゼットonシャンゼリゼ!!

金無「おぉーここはっ!」
お店「おフランスはシャンゼリゼ通り。快晴、気候の良い昼下がり」
金無「というか俺は……?」
お店「あなたには、馬車をご用意。荷台から手を差し伸べる王子的演出」
金無「あぁそれでそいつは、道端というのに店主さんの隣で眠ってるのか」
お店「そいつ、とか生意気っ!! ごほん、それでは眠りをばっ」
 指パッチン。
 彼女起きる。
 彼女、状況を把握するのに時間を要する。
 状況を把握できたとしても理解も納得もできないご様子。
 すぅっと彼女の眼前に馬車の中から手が差し伸べられる。
金無「来たいって言ってたフランスのシャンゼリゼ通りだよ」
 彼女はしばらくの間、キョトンとしたまま金無の手を見つめていました。手相的に金銭運絶望ということを読み取れれば大した娘だなぁなんて思うところではありますが、そうではなく、しばらくすると彼女は、心ここにあらずという挙動で、金無の手をとりあえずという感じで取ったのでありました。
お店「これで満足ですか?」
 そんな言葉を風に乗せて、僕は先に現実へと戻ることにしました。
 すぐに魔法の効果は切れることでしょう。

こがたとえ、なにひとつ違わない『現場』であったとしても、そこまでの過程に何も感じられるものがなければ、果たしてそれを彼女は『目的としていた旅行』だと喜べるのでしょうか。それでは僕にはただの『アトラクション』というふうにしか思えないような気がしています。
だから旅というものは目的地の中にも大きな目的はあるけれど、移動内容にこそ大きな意味があると感じているのであります。
どこに行くのかということもひとつ大切なポイントではありますが、どこに行こうとも移動が楽しい、と思えることがすごく重要だと考えている僕は、なにかと遠回りが好きだったりも。
そういえば人生もそんな感じだったり。
しかし人生はハッキリと近道を求めているので、こちらはふんだりけったりだなぁなんて思う今日この頃なのでありました。残念無念。
そしてこのお話、当たり前ですけれどフィクションですからねっ!!

(※1)成仏した音。決して殺害の音ではない。
(※2)てか、ココロの中にしねぇだろうがぁっ!!
(2019.02.08-typewrite)